ちなみにこの記事は経験年数10数年の泌尿器科専門医の僕が、親兄弟・友人に説明するならこう話すかな~って感じであえて世間話でもしてるかのように書いていきますので医学的用語など必ずしも正確ではない記述もあるかとは思いますがそこはご容赦を。
前立腺って?
名前は聞いたことはあるけど、どこにあって何をしてる臓器なのか分からない。っていう方もいるんじゃないでしょうか。
前立腺っていうのは、膀胱と尿道の間にあってその中を尿道が貫いてる臓器で、大きさも形もクルミぐらい。精液の一部を作る役割。男性にしかない臓器。
こんな感じの説明になるでしょうか。
前立腺の病気って?
大きく3つの病気があります。
- 前立腺肥大症:前立腺が大きくなってしまって尿道を圧迫して尿の通過が悪くなってしまう病気
- 前立腺炎:前立腺のバイ菌感染
- 前立腺癌:前立腺の悪性腫瘍
この中で早期発見して初期のうちに根治させるべきは前立腺癌です。では早期発見のために推奨されているのが検診でのPSA測定です。
PSAって?
PSAとは、前立腺特異抗原 prostete specific antigenの略語です。前立腺の細胞から分泌されるたんぱく質で主には精液中に分泌されますが、ごく微量だけ血液中に出てきます。先ほど紹介した前立腺の病気になるとPSAの産生量が増加して血液中のPSAも上昇することになります。つまりPSAが高いと前立腺癌の可能性が高くなるというわけです。
PSAを検診で測るのは前立腺癌を早期発見するためで、日本での基準値はPSA4.0ng/mlとされています。検診でPSAが4ng/ml以上と結果が出た方は泌尿器科への受診を勧められますのでぜひ泌尿器科を受診してください。
PSAが高ければ必ず前立腺癌が確定するわけではありません。先ほど紹介した前立腺肥大症や前立腺炎でもPSAは高くなってしまうので、泌尿器科外来ではこれらを症状やエコー検査、採血検査などを併用して除外することが必要になります。これらの前立腺癌以外の前立腺の病気が否定されると、いよいよ前立腺癌が怪しいとなるわけです。
前立腺癌と診断するための検査は?
PSAが4.0ng/mlだと、だいたい2割程度の確率で前立腺癌が隠れていることになりますが、まだ前立腺癌確定には至りません。
診断のためには前立腺生検という検査が必要になります。この検査は前立腺の一部を針で採取して顕微鏡検査の結果で前立腺癌かどうかを確定するという検査です。詳しい方法は後述しますが、この検査のためには麻酔が必要であり、しかも人体に針を刺して前立腺組織を採取することになります。そして施設によって入院日数は様々でしょうけど、基本的に1~2泊の入院が必要になる検査です。
現役で働いておられる方ならお仕事のご都合もあるでしょうし、脳梗塞や心筋梗塞などの既往があり「血液サラサラ薬」を飲んでおられる方は出血のリスクもつきまといます。つまり、この前立腺生検という検査は少し敷居が高い検査なのです。
そこで前立腺生検の前段階としてよく行われる検査がMRIという画像検査です。画像検査ですので、痛みも伴わず数十分でできる検査ですので、閉所恐怖症や体に医療用の金属が入っているなどの特別な理由がない場合には前立腺生検の前にはほぼ行われていると思います。
ただ、このMRI検査も完全ではありません。前立腺癌が疑わしいのかどうか大まかに確認するためのものと思ってもらったほうがいいかもしれません。前立腺癌をどの程度疑うべきか、また前立腺癌が疑わしいなら前立腺のどの位置が疑わしいのかを探るのが目的です。
前立腺生検の方法は?
PSAが高く、MRIでも前立腺癌を疑うべきとなるといよいよ確定診断のための前立腺生検が必要になります。
施設によって細かいやり方は異なるでしょうけど、これまで所属してきた7つの施設で行ってきた方法をご紹介します。
検査の日は一応、朝ごはんから抜いてきてもらいます。病院に来られたらお着替えをしてもらって、点滴を確保。時間になるといよいよお部屋へ移動です。外来の検査室で行う場合もあれば手術室で行う場合もあります。
麻酔はサドルブロックまたは仙骨麻酔という方法で行います。サドルブロックは腰部分の背骨の隙間から、仙骨麻酔はお尻の骨の隙間から痛み止め注射をする方法です。厳密な腰椎麻酔(いわゆる下半身麻酔)とは違ってお尻あたりの痛みをぼんやりとる方法です。この方法でほぼ苦痛なく検査を受けてもらうことができます。
実際に前立腺に針を刺す経路ですが、
- 経会陰的な方法
- 経直腸的な方法
の二種類があります。
どちらの方法もお尻から超音波用のプローベという棒状の装置を入れて前立腺をエコーで確認しながら検査します。経会陰的な方法とは陰嚢と肛門の間から直接針を刺して前立腺の一部を採取します。一方、経直腸的な方法とはお尻から挿入したプローベという棒状の装置に沿わせて直腸を通過して前立腺に針を刺します。
穿刺する本数ですが、可能な限り万遍なく前立腺全体から12本以上採取することが推奨されています。検査はだいたい15分ほどで終わり、その日は検査後の合併症チェックのために一晩入院してもらうことになるので病室へ移動します。
翌日、主に以下の合併症がなければ退院となります。
- 尿閉:麻酔や痛みなどの刺激で一時的におしっこが出せなくなる。
- 発熱:前立腺にバイ菌感染を起こした可能性。
- 出血:直腸や尿道から出血が止まらない。
これらも合併症がなければ退院の流れになります。施設によってはさらに安全策をとって2泊入院してもらうところもあります。
病理結果説明
病理医という組織の顕微鏡検査を専門で見てくださる先生方にお願いして、前立腺生検で取れた組織を病理診断してもらい、良性か悪性かによって今後の流れを相談します。結果が出るのは生検からだいたい1〜2週間ぐらいです。
まとめ
検診でPSA高値を指摘された方が泌尿器科を受診された際の流れを説明させていただきました。PSAが高いからといって必ずしも前立腺癌なわけではありません。また、たとえ前立腺癌が発見されたとしても、前立腺癌治療はかなり進んでいます。早期で見つかれば根治できる病気ですし、少々進んだ状態で発見されてもかなりの確率で治療できる病気です。悲観的にならずにぜひ早いうちに泌尿器科を受診してください。
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